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イスラエルの国内情勢の変化と第三神殿への道

2023年4月9日

聖書ニュース.comさんより転載

イスラエルの国内情勢の変化と第三神殿への道 - 聖書ニュース.com (seishonews.com)

近年、エルサレムの神殿の丘をめぐるニュースが加速度的に増加している。前回の記事では、神殿の丘をめぐる国際情勢を取り上げたが、今回は神殿の丘をめぐるイスラエルの国内情勢を見ていきたい。イスラエル国内の状況を見ても、第三神殿建設への道が着々と整いつつあるように見える。

 

イスラエル国会で第三神殿担当大臣の設置の可能性に言及

昨年12月のイスラエル国会(クネセット)で、神殿の丘に神殿が建設された後、担当大臣を置くかどうかという議論が行われたことを『Israel365 News』が報じている。まだ神殿が建ってもいない現段階で議論する問題ではないが、このような議論が行われること自体、時代の変化を表している。

 

クネセットの「憲法・法律・司法委員会」では、イスラエル憲法改正に関する議論が行われている。「イスラエル政府の構成」を規定した条項を改正し、新しい大臣の追加を認めるためのものだ。この改正案に関する議論の中で、中道派のイェシュ・アティード党のミハエル・シール(Michal Shir)議員は、第三神殿が建設された場合、政府は追加の大臣を任命するかという質問を行った。この質問で委員会は混乱し、憲法改正の賛否を議論しているのか、神殿建設の賛否を議論しているのかわからない状態に陥ったという。

 

この議論は仮定の話で、神殿担当の大臣を置くことを具体的に討議しているわけではないが、第三神殿の建設を前提にした議論が行われたというだけでも特筆に値する。クネセットでも、第三神殿に関する議論がもはやタブーではなくなっていることがわかるエピソードだからである。このことは、エルサレムの神殿の丘をめぐる環境の変化がもたらしたものであると言える。

 

 MEMO

神殿の丘をめぐる国際情勢の変化については、「神殿の丘をめぐる国際情勢の変化と第三神殿への道」を参照されたい。

 

ネタニヤフ政権の発足と宗教右派の影響力

昨年12月のイスラエル総選挙の結果で誕生したベンヤミン・ネタニヤフ政権は、歴史上で最も右寄りの政権と言われている。また、下表に示すように、最大党のリクード以外はすべて宗教右派の政党で固められており、宗教色が強い政権でもある。

ネタニヤフ政権を構成する政党

政党

思想

議席

増減

リクード

右派

32

+2

シャス

宗教右派

11

+2

ユダヤ・トーラー連合

宗教右派

7

±0

宗教シオニスト

宗教的シオニズム(極右)

7

+3

ユダヤの力

宗教的シオニズム(極右)

6

+5

ノアム

宗教的シオニズム(極右)

1

±0

 

注:政党の思想のカテゴリー分けは、基本的に英語版WikiPediaの記述による。

 

この中でも注目は、イタマール・ベングヴィール党首が率いる「ユダヤの力」党である。この党は、二国家解決案を否定し、パレスチナ自治区となっているウェストバンク(ユダヤ・サマリヤ地方)を併合し、地中海からヨルダン川までの土地をすべてイスラエルが支配する一国家解決案を党是としている。また、現在はヨルダン政府が管理するイスラム教の「ワクフ」が管理する神殿の丘に、イスラエルの主権を適用することも主張している。さらに、神殿の丘に第三神殿を建設することを公式に支持している政党でもある。実際に、ベングヴィールは、2022年5月に神殿の丘を訪問した際に「神殿の丘にユダヤ教のシナゴーグを建てる時が来た」という言葉を残している。

 

イタマール・ベングヴィール

この「ユダヤの力」党には6名の議員がいるが、同様の政治的主張を持つ宗教シオニスト党とノアム党と統一会派を形成しているため、与党64名の議員の内14名を占める比較的大きなブロックとなっている。そのため、同会派が重要な政治案件でキャスティングボートを握ることになると予測されている。また、ベングヴィールは今回のネタニヤフ政権で国家安全保障大臣として入閣しており、この後で書くように、波乱を呼ぶ可能性がある。

 

ベングヴィール国家安全保障相が神殿の丘を訪問

このベングヴィール国家安全保障相が、今年1月3日に神殿の丘を訪問し、国際的に大きな話題となった。イスラエル政府の閣僚が神殿の丘を訪問をするのは初めてではないが、ベングヴィールが対アラブ強硬派であり、第三神殿の建設を支持し、(現在は禁じられている)ユダヤ人が神殿の丘で礼拝することを認めるよう主張しているからだ。ベングヴィールの訪問に対し、パレスチナ自治政府イスラム諸国だけでなく、欧米諸国からも抗議が行われたが、ベングヴィールの訪問はイスラエル国民の世論を背景とした動きでもある。今回の選挙で「ユダヤの力」党が属する宗教的シオニズムのブロックが躍進したのも、イスラエル国民の支持があったからである。

 

第三神殿を後押しする国内世論の変化

イスラエル民主主義研究所(IDI)が2019年9月に発表した世論調査によると、ユダヤイスラエル人の50%が、神殿の丘でユダヤ人が祈りをささげることを支持している。また、2013年の調査では、ユダヤイスラエル人の30%が神殿の建設を支持している。神殿の丘を取り巻く状況が大きく変化している現在では、この数字は30%よりも高くなっているだろう。つまり、国際的には「極右」と評価されていても、宗教的シオニズムを掲げる政党にはユダヤ有権者の中に岩盤の支持層がいるということである。

 

神殿の丘を訪問するユダヤ人も急増している。ユダヤ人と神殿の丘のつながりの強化を求めるNGO団体「ベヤデヌー(Beyadenu)」によると、2022年中にエルサレムの神殿跡を訪れたユダヤ人は51,483人で、過去最高となった。これは2021年の34,651人、2020年の20,684人からの増加で、訪問者数が急速に伸びていることがわかる(Jews Visited Temple Mount in Record Numbers in 2022)。この変化は、実はユダヤ教指導者内部の変化を反映した結果でもある。

 

ユダヤ教指導者の変化

何世紀にもわたり、正統派のラビは、ユダヤ人が神殿の丘に上ることを禁じてきた。神殿の丘では儀式的きよめの律法が適用され、儀式的な汚れがある状態で上ることは大罪だとされたからである。たとえば、正統派ユダヤ教徒が支持母体であるユダヤ・トーラー連合党の党首、ラビ・モシェ・ガフニは、ベングヴィール大臣が神殿の丘を訪問した翌日に次のように語っている。

私の立場は、神殿の丘を訪れることはハラハ(ユダヤ法)で禁じられており、イタマール・ベングヴィール大臣には、昔も今もそう言っている。私は、それは許されないという考えだ。至聖所に上ることは禁じられている。
― Pesach Benson, “Jewish Visits to Temple Mount Break Modern Record, Expose Religious Divide,” Israel Today, 15 Jan 2023

原文を読む

 

このように教えるのは、儀式的きよめの教えに加えて、神殿の丘のどこに神殿が建っていたのかが正確にわからないので、至聖所があった場所の上を歩いてしまう可能性があるためでもある。しかし、近年では、神殿の丘に上ること自体は問題ではなく、神殿の丘の全体に儀式的きよめの律法が適用されるわけではないと主張するラビが増えている。そうしたラビは、きよめの儀式を行った後であれば、ユダヤ人は許可された区域に訪問するよう奨励するようになっている。これは、神殿の丘はユダヤ人とは縁もゆかりもないと主張するパレスチナ側のプロパガンダに対抗し、神殿の丘とユダヤ人のつながりを示すためである。また、神殿の建設がメシアの贖いの成就と関連しているという教えのためでもある。

 

ただ、神殿の丘に上るユダヤ人は増えたものの、依然として神殿の丘がワクフの管理下にあることに変わりはなく、ユダヤ人訪問者には不満が残る。先述のNGO団体「ベヤデヌー」のトム・ニサニCEOは次のように語る。

 

神殿の丘を訪れる何百人ものユダヤ人が逮捕され、禁止され、拘留されているのを目撃しています。暴力的行為や違法行為をしたからではなく、祈ったり、イスラエルの旗を振ったり、スフガニヨット(ハヌカの祭りの時に食べるドーナツ)を食べようとしたなど、ばかげた理由によるものです。2023年は、これを変えなければなりません。
― “Jews Visited Temple Mount in Record Numbers in 2022,” United with Israel, Jan 12, 2023

原文を読む

 

ベヤデヌーは「神殿活動家」と呼ばれる人々のグループであるが、このような神殿活動家の長年の活動が、現在のようなイスラエルの国内世論の変化をもたらしたと言える。

 

神殿活動家の運動が政府を動かすか

ベヤデヌーのほかにも神殿活動家グループはいくつかあり、その中に「神殿の丘への帰還(Return to the Mount)」という団体がある。ベングヴィールの「ユダヤの力」党は神殿の丘でユダヤ人が祈ることを求めているが、この団体はもう一歩進んで、神殿の丘で過越のいけにえをささげることを求めて活動している。この団体の代表を務めるラファエル・モリス(Rafael Morris)によると、公の場では言わなくても、民間にも政府にも、神殿の丘で過越のいけにえをささげることを静かに支持している人は数多くいるという。モリスは次のように語る。

 

100年前なら、イスラエルユダヤ人国家を建国するという話をすることは狂気の沙汰で、アラブ人の逆鱗に触れることでした。80年前なら、ユダヤ人がコテル(西壁、嘆きの壁)やヘブロンで祈るという話をすることは狂気の沙汰で、アラブ人の逆鱗に触れることでした。コルバン・ペサハ(過越の祭りのいけにえ)は聖書の命令であり、ユダヤ人が何千年間もエルサレムで行っていたことです。これはごく当たり前のことなのです。
― Adam Eliyahu Berkowitz, “Temple Mount activists petition Ben Gvir to permit Passover sacrifice,” Israel365 News, 4 Jan 2023

原文を読む

 

また、モリスはユダヤ人にとっての神殿の丘の重要性を指摘して、次のように語る。

 

 ユダヤ人が律法に記された数百もの命令を実行できるのは、神殿の丘の上だけです。神殿の丘は私たちの最も神聖な場所ではありません。私たちの唯一の神聖な場所なのです。神殿の丘がなければ、律法を守るユダヤ人にはなれません。
コルバン・ペサハ(過越の祭りのささげ物)を携えてこないことは、聖書に記されている最も厳しい罰である「カレト」の罰を伴うことです。三千年前にダビデ王が神殿の丘を奉献して以来、神殿の丘はユダヤ教の中心であり、律法のミツヴァ(命令)を実行できる唯一の場所なのです。
― Adam Eliyahu Berkowitz, “Temple Mount activists petition Ben Gvir to permit Passover sacrifice,” Israel365 News, 4 Jan 2023

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つまり、神殿がないと、ユダヤ人として律法を守ることができないばかりか、神から最も厳しい罰を受ける可能性があるというのがモリスの主張だ。このような主張をしている神殿活動家が、神殿に関する主張を曲げて簡単に引き下がることはないだろうと容易に想像できる。

モリスは、神殿の再建を求める神殿運動はかつてのイスラエルでは狂信的な運動とみなされていたが、現在では主流派になりつつあると語る。

10年前であれば、神殿の再建は、イスラエルのメディアでは、気違いの集団が行う過激な扇動と言われていました。警察や自治体は、私たちが許可証を申請すると文句を言ってきたものです。今では、私たちのところに来て、いつ申請するのかと聞いてくるのです。
― Adam Eliyahu Berkowitz, “Temple Mount activists petition Ben Gvir to permit Passover sacrifice,” Israel365 News, 4 Jan 2023

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今、イスラム教のモスクが建つ神殿の丘で、ユダヤ人が過越の祭りのいけにえをささげることを求めて活動していると言うと、そのようなことが実現するわけがないと思われるかもしれない。しかし、モリスの団体が過越のいけにえをささげさせてほしいと嘆願している相手は、「ユダヤの力」党のベングヴィール党首である。ベングヴィールが国家安全保障大臣に就任したことは先述したが、国家安全保障大臣はイスラエルの警察のトップでもあり、当然のことながら神殿の丘の警備も管轄下にある。第三神殿の再建を公式に支持しているベングヴィール国家安全保障相がこの嘆願にどう対応するかに、注目が集まっている。「神殿の丘への帰還」のモリス代表は、ベングヴィール大臣宛ての嘆願書で次のように記している。

 

今年は、政治状況と長い歴史の中で初の「完全な右派」政権が樹立されました。イスラエルの新国家安全保障大臣である貴殿の権限下にあるイスラエル警察を筆頭に、あらゆる関係部署によって認可され、尊厳を持って承認された形で、大勢のユダヤ人が過越の祭りのいけにえをささげることが現実味を帯びてきているのです。
― Adam Eliyahu Berkowitz, “Temple Mount activists petition Ben Gvir to permit Passover sacrifice,” Israel365 News, 4 Jan 2023

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そして、モリスはこの嘆願書を次のように締めくくっている。

 

かつての栄光を取り戻し、過越のいけにえをささげる絶好の機会が約二千年間で初めて訪れているのです。この運動は、ゲウラー(贖い)を進め、第三神殿の建設が開始された年として歴史のページに記録されることになるでしょう。
― Adam Eliyahu Berkowitz, “Temple Mount activists petition Ben Gvir to permit Passover sacrifice,” Israel365 News, 4 Jan 2023

原文を読む

 

今年の過越の祭りは4月13日に予定されている。ベングヴィール大臣がこの嘆願にどう対応するかを見守る必要がある。

 

第三神殿の預言

聖書では、終わりの時代エルサレムに神殿が建つことが預言されている(「終末預言を読み解く:第三神殿の再建」参照)。その預言の中では、「いけにえとささげ物」がささげられていることも記されている(ダニエル9:27)。そのため、モリスのような神殿活動家の主張は、今は突飛な主張と思われても、必ず実現する。過去から現在に至るまでの歴史の流れを見ても、時代は聖書が預言した通りに進んでいることがわかる。モリスが言うように、かつてはイスラエルの地にユダヤ人国家を建設することも、ユダヤ人がエルサレムの西壁で礼拝することも夢物語だった。そして今、神殿の建設を公式に支持する政党が政権与党の一部となっている。もはや第三神殿の建設も、夢物語とは言えなくなっている。

 MEMO

聖書の預言が過去にどのように成就したきたかについては、クリスチャンコモンズ「聖書の預言」の記事を参照されたい。

 

このような状況を見て、どういう教訓があるだろうか。イエスは、マタイ16:2~3で次のように語っている。

 

2 イエスは彼らに答えられた。「夕方になると、あなたがたは『夕焼けだから晴れる』と言い、

3 朝には『朝焼けでどんよりしているから、今日は荒れ模様だ』と言います。空模様を見分けることを知っていながら、時のしるしを見分けることはできないのですか」

エスは、この言葉をもって、イエスがメシア(救い主)として来ていることを受け入れなかったユダヤ人たちを戒めた。そして、イエスはもう一度、この地に戻ってくると約束しておられる。新約聖書のヘブル9:27~28にはこう書かれている。

27  そして、人間には、一度死ぬことと死後にさばきを受けることが定まっているように、

 28  キリストも、多くの人の罪を負うために一度ご自分を献げ、二度目には、罪を負うためではなく、ご自分を待ち望んでいる人々の救いのために現れてくださいます。 

 

エスは、一度目は人々の罪を負うために来られ、十字架上でそのわざを完了された。そのため、イエスをキリストと受け入れて福音を信じる者は罪を赦され、救われる。イエスは、二度目にはこのような人々のために現れてくださる。しかし、そうでない人には「死後にさばきを受けることが定まっている」(27節)と言われている。キリストの再臨のしるしが現れ始めている今のうちに、読者もキリストの救いを受け、キリストを待ち望む者となることを筆者は願っている。

参考資料

神殿の丘の写真:Yaakov Lederman / Flash90
イタマール・ベングヴィールの写真:דוד דנברג – איתמר בן גביר (CC BY-SA 3.0)

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